それから何時間が立っただろうか・・・

　　　　　　タリスは呆然とその場に座り込んでスティンの亡骸を見つめていた。

ミム　　　「・・・・・・・・」
タクラム　「ミムが気に病む事はないさ、蘇生術は本人の生命力が維持できなければ
　　　　　　使えない。」
ミム　　　「分かってる・・・　そんなこと分かってるわ」

タクラム　「タ・リス・・・」
　　　　　　タクラムはそっとタリスの肩に手を掛けて話しかけた。
タクラム　「このままにしておくつもりなのか？」
タリス　　「・・・・・・・・
　　　　　　そうだね、このままじゃいけない・・・」
タクラム　「お前は親父の墓を堀りな、俺はサウミを葬るから・・・」
　　　　　　タリスは　サウミを恨めしげに見つめた。
タクラム　「タリス　こいつを恨むなよ・・・一番かわいそうなのはサウミだった
　　　　　　かもしれない・・・スティンもそれが分かっていたのだろう」
タリス　　「わかっちゃいるよ・・・理屈ではね・・・」
　　　　　　そう言いながらサウミの胸に突き刺さった剣を抜いた。

　　　　　　島の小高い丘に２人を埋葬し終わる頃には既に陽が沈みかけていた。
　　　　　　タリスとタクラムはそれぞれの墓に剣を突き立て墓標にして丘を降りた。

タクラム　「仕方がない　今夜はサウミの小屋に泊まるとするか。」
　　　　　　ミムは既にそのつもりで食事の用意をしている。
ミム　　　「大した物はないけど、食べなきゃ体に悪いわ。
　　　　　　保存が効きそうな物はそのまま持って行きましょう」
　　　　　　３人はやっとの思いで食事を喉に通した。
タクラム　「明日早く発とう。　おいらは寝るよ。
　　　　　　早く夢にしてしまいたいからね。」
　　　　　　そう言ってタクラムは２階に上がった。

　　　　　　タリスは残っていた酒を煽った。
　　　　　　何杯も何杯も・・・酔いつぶれて眠るまで呑もうと思ったが、
　　　　　　思うように酔ってくれない。
　　　　　　かえって頭の中が鮮明になってくる。

　　　　　　やがて酒も尽きる頃ミムが隣の部屋から入ってきた。
ミム　　　「眠れないのね・・・」
　　　　　　ミムはソファの隣に腰掛け、タリスの首に手を掛けて優しくキスをした。
タリス　　「同情かい？！」
ミム　　　「意地っぱり！！」
　　　　　　ミムはタリスにしがみついてきつく抱きしめた。
ミム　　　「どうして？！　悲しいんでしょ？　泣いちゃえばいいじゃない！」
　　　　　　泣く？　タリスはそんなこと考えても見なかった。
　　　　　　しかし　ミムの言葉を効いた瞬間、関を切ったようにタリスの目から
　　　　　涙があふれ出してきた。
　　　　　　ミムはタリスの悲しみを包み込むように優しくタリスを抱きしめた。

　　　　　・・と　その時タクラムが２階から降りてきた。
タクラム　「おっ・・・と　お取り込み中失礼！」
　　　　　　ミムは　ハッとしてたくらむの方を振り向いた。
タクラム　「続けてもらっててもいいんだけどね・・・
　　　　　　ちょっと外の様子が変だぜ」
ミム　　　「えっ？　」
タクラム　「虫が鳴き止んだ。
　　　　　　来るぞ　！！」
　　　　　　ミムとタクラムは　タリスをかばうように構えた。
　　　　　『ほう　気がついたか・・・』
　　　　　外から影が１、２、・・・４つドアから入ってきた。
タクラム　「なんだてめぇら！　ここのじいさんなら死んじまったぜ」
　　　　　『じいさんはどうでもいいんだがな・・・ここに飛竜に乗ってきた
　　　　　　４人に用があってな・・・』
タリス　　「残念だったな、今は３人しかおらん　会いたければ丘の上の墓にでも
　　　　　　行ってくれ」
　　　　　　タリスはどっかりとソファに腰掛けたまま侵入者に語り掛けた。
　　　　　『ふむ　ならば手間が省けたという物』
タクラム　「なんだとっ　？！」
　　　　　『別に俺たちゃあんたらに恨みは無いんだが・・・
　　　　　　そこの坊やとおやじさんには結構な賞金が掛かってるんでね
　　　　　　悪いが首をいただきに来た。』
タリス　　「へっ　けちな賞金稼ぎか？！」
　　　　　『威勢がいいようだね　このぼっちゃんは』
タリス　　「名も知らぬやからに斬られるのは性にあわん。
　　　　　　名を名乗れ！」
　　　　　『まあいいやな、冥土の土産だ聞かせてやろう。
　　　　　　俺ぁ　賞金稼ぎではちったぁ知られた　ジャンゴだ』
　　　　　『あちきはロンメル』
　　　　　『俺はトーイだ』
　　　　　『あっしはバークレイ、傭兵崩れだ』
タクラム　「死神ジャンゴ？！　やっ　やべぇよ　タリス！」
　　　　　『さて　自己紹介も終わった事だ、そろそろ仕事にかからせてもらうぜ』
タリス　　「ふむ　４人か・・・
　　　　　　下がっていろ　タクラム　ミム！」
　　　　　　タリスは剣を抜いて立ち上がった。
　　　　　　同時に相手が武器を構える音がする。
タリス　　（ジャンゴはソード、後ろのバークレイは・・・あの風鳴りはレイピア
　　　　　　だな、チェーンの音は右のトーイか、左のロンメルは音がない・・・
　　　　　　斧か？ハンマーか？・・・やっかいなのはトーイだな！）
　　　　　　タリスは右に体を翻し、水平にトーイを切りつけた。
　　　　　　剣は弧を描く銀の軌跡を残してトーイの首をはねた。
　　　　　　ドサッッ　・・・床に鈍い音がつたわる。
　　　　　　その瞬間を狙ってジャンゴの背後の死角からバークレイが突き出した
　　　　　　レイピアが頬をかすめた。
ジャンゴ　「ひゅぅ　先手必勝か！　やるじゃねぇか
　　　　　　名乗らせたのは人数を計るためかぁ？！」
　　　　　　ジャンゴの言葉と同時にまた死角からレイピアが飛び出してくる。
　　　　　　タリスはレイピアを剣で受け流し下手でダガーを投げた。
　　　　　　キンッ　鋭い音がしてダガーは跳ね返されたが、一瞬レイピアの力が
　　　　　　緩んだ隙にタリスは剣を差し込んだ。
　　　　　　手ごたえは十分！　そのまま剣を刃に逆らわず斜め上に振りあげた
　　　　　　ドサッ。　再び床に倒れる鈍い音がした。
ロンメル　「おほほほほほ　少しは楽しめそうね。
　　　　　　でも今の２人は金目当てにのこのこ付いてきた雑魚だわ
　　　　　　あちきと兄じゃはそう簡単には行かないわよ」
タリス　　「ほざけ！　オカマ野郎！」
ロンメル　「その減らず口、すぐに止めてあげるわ！」
　　　　　　ヒュッ・・シュシュシュシュ・・・シャンッ　チリッ・・・
　　　　　　何かがタリスに近づいてくる。
　　　　　　気配はあるが暗いせいか見えない！
　　　　　　タリスは剣で受けようとした。
　　　　　　チンッ　何かが剣に当たった・・・がその次の瞬間左肩に激痛が
　　　　　　走り、血が吹き出した。
タリス　　「くっ！　　　なんだ？！これは」

タクラム　「くそっ　暗くて見えねぇ！」
ミム　　　「まかせて　！」
　　　　　　　ディア アトモス フレアラ  スウォイ フレイア アス タークン
　　　　　　『天界の光明よ　集いて闇を照らさん！』
　　　　　　ミムは光魔法を唱え、部屋全体がぼーーっと明かりを帯びたように
　　　　　　光だした。

　　　　　　そこには、全身をアーマーに包んだ巨大で（身の丈1500Mermほど）
　　　　　　且つ屈強な戦士と、薄いマントを羽織った小柄で痩せた男、そして
　　　　　　既に肉塊となって横たわったトーイとバークレイの姿が浮かび上がった。

ジャンゴ　「お嬢ちゃん　そいつはサービスかい？　へへへへ」
　　　　　　ミムのローブはタリスを襲った『何か』が通過したときに切られたのか
　　　　　　前が肌けていた。
ミム　　　「きゃっ！」
　　　　　　ミムはローブに潜り込むように座り込んだ。
ジャンゴ　「お楽しみはこいつを殺ってからだぜ　ロンメル」
ロンメル　「ふふ　じゃあ早いとこ終わらせちゃいましょ」
　　　　　　ヒュッ　シュルルルルルルル
　　　　　　またあの音だ　！
　　　　　　・・・
　　　　　　そいつは目の前のテーブルを切り裂きながら近づいてくる。
　　　　　　タリスはとっさに身をかわした。
タリス　　「くそっ！！　それでも見えやしねぇ！」
タクラム　「こっ　これはもしや・・・
　　　　　　タリス気をつけろ！　こいつの武器はダイヤモンドチェーンだ！！」
ロンメル　「ふぅむ　気付いたかぁ　なかなか聡明な連れをお持ちだ。
　　　　　　しかし見えなくてはどうする事もできまい」
　　　　　　ヒュッ　シュシュシュシュ・・・・
タリス　　「そうかっ　！！」
　　　　　　タリスは目の前にあったブランディー入りの陶器の瓶で近づいてくる
　　　　　　その軌道を上から押さえつけた。
　　　　　　チリリリッ　音はそこで止まった！
タリス　　「名工に焼き込まれた陶器の堅さはダイアモンドに匹敵する。
　　　　　　貴様の負けだ！」
　　　　　　そのまま　タリスはロンメルの懐に飛び込み横一文字に切り裂いた。
　　　　　　その時　タリスの背中に激痛が走った。