第一章 『タリス』 ２
その朝早く、スティンとタリスは長年住んだ家を後にした。 タリス 「旅立ちそうそう悪いんだけど、何処に行くんだい？」 そういえば教団粉砕を掲げるのはいいが何処に行き何をするのか なにも話しを聞いていないのである。 スティン 「うむ、ここから馬で１０日程西に行ったところ、ルーフとの国境の 山奥にヨマという術師が住んでおる。 彼はグラムの学士であった者、力になってくれるだろう」 彼らはトバの町で装備を整え、一路国境の山ネルミ山脈 （別名『風の背骨』）へと向かった。 眼前にはネルミの山々がそびえ立っていた。 風の背骨は３０００Berm（1Bermは1.4m程度）の高さにその尾根を這わせ 万年雪でまさに白い背骨のような様相をなぞらえている。 スティン 「残念だがここから馬は無理だ歩くとしよう。」 すでに１０日立って食料もわずかに残っているだけなのでさほど装備は 無いものの、この頂を見せつけられては馬は野に戻っていただくしか なさそうだ。 スティンとタリスは道とも見分けの付かない獣道を分け入った。 かれこれ５時間も歩いただろうか、まだ森はあるが既にそのフロー ラは広葉樹から針葉樹に変わり、冷たい空気が辺りに立ちこめていた。 スティンは何かの気配を感じて立ち止まった。 タリス 「なに？ どうしたんだ？」 スティン 「しっ！ 何かいる。」 林の何処からともなく声が聞こえてきた。 『へえぇ 感はいいようだな』 『うふふ 感はいいようね』 タリス 「どなたかは知らんが何か用かな」 『ここは生きた人間が来るところじゃ無いよ』 『来るところじゃ無いわ』 スティン 「どうやら歓迎されているわけではなさそうだな」 道の前後をはさむようになにやら怪しい光が揺らめきだした。 スティン 「気をつけろタリス」 言われるまでもなくタリスは剣に手を掛けている。 前の光の中から錆びた剣を構えたスケルトンが、後ろの光の中から サイスを構えたリッチが飛び出してきた！！ タリスはいきなり襲ってきたスケルトンに得意の一撃を加えた・・ が、剣は虚しく宙を斬った。 タリス 「へっ？」 タリスはキョトンとしているがスケルトンは間断無く飛びかかって くる。 タリスはもう一度剣を降り下ろしたが やはり手ごたえがない。 スティン 「無駄な事はやめろ こいつらには殺気がない。 ただの影にすぎん・・・・・ そろそろ姿を現したらどうだね、子供のいたずらで済んでる内に」 スティンはダガーを構え、１０Bert位下ったところにある一際大きな シーダーの木に向かって投げた。 『ふぅん 少しはできるみたいだね』 『できるみたいね』 『でも これでどうかな？・・・ 氷壁に眠りし主よ、目覚めて我に従え！ フロスト ロウ ロックル 氷 魔 召還 ！』 ダガーとすれ違うように氷の矢がスティンめがけて飛んできた。 しかしスティンは首をかしげて軽く交わし、矢は後ろの木に当たった。 木はみるみる内に凍りつき、砕け散ってしまった。 スティン 「なかなか恐いおもちゃだ」 パチパチパチパチ・・・ 拍手をしながら木の影から出てきたのは人間で言えば１４，５才に 見えるハイエルフの双子の姉弟だ。 タリス 「なんだ まだがきんちょじゃないか」 『失礼な奴だな、これでもおいら４０年は生きてるんだぜ』 スティン 「それは失礼いたした。長く生きていてもエルフの年までは見分けが 付けられないものでな。 私はスティン、こいつは相棒のタリスだ。 名前くらいはうかがってもよろしいかな？」 タクラム 「おいらは タクラム・ディ」 ミム 「あたしは ミム・ディょ お見知り置きを」 スティン 「宜しく。 お坊ちゃん、お嬢ちゃん。 さて、訪ねたい事が有るのだが、お仕置きの前がいいかね後が いいかね？」 さすがに太刀打ちできないと悟ったのかタクラムもミムも少し すくみながら顔を見合わせている。 パンッ パンッ ちょうどその時スティンの背後で手を鳴らす音が聞こえた。 振り向くとかなり高齢なエルフの老人が切り株に座っている。 スティン 「ヨマ！」 タクラム 「師匠！」 ミム 「師匠！」 ヨマ 「おおっ そなた スティンではないか。」 スティン 「達者であったか ヨマ！」 ヨマはタリスの方に目を向けた。そしてタリスの持つ剣を見た。 ヨマ 「これは・・」 スティン 「ああ これは相棒のタリスだ」 タリスに気付かれないようにヨマに目配せをした。 ヨマはあわてたようにうなづいて、タリスの方を見た。 ヨマ 「これはこれは タリス殿私はスティン殿の友人ヨマと申します。 それからあそこにいるのが私の不出来な弟子タクラムとミム もう自己紹介はお済みのようじゃな」 スティン 「ヨマ 実はな・・・」 ヨマはそこまで聞いて口をはさんだ。 ヨマ 「そなたの考えている事は判っておる。 しかしひさびさの旅の疲れも有るであろう、今日は酒でも飲まぬか？ たいして積もる話しも無かろうがのう ほっほっほ」 一行はヨマに案内されるまま大きな岩にできた風穴の中にある ヨマの家へと向かった。
