第一章 『タリス』 １
ここはタス国の辺境地 トバの町外れにある小さな農場である。
タリスが物心が付く前にグラム国から父スティンと共にここに移り
住んで既に１８年もになる。
来る日も来る日も栽培と収穫そして父スティンと剣の練習に明け
暮れる毎日であった。
今日も一日の作業が終わりタリスは納屋で道具の手入れをしていた。
その時である。
スティンが後ずさりしながらドアを後ろ手に開けて入ってきた。
スティン 「タリス 受け取れ！」
それは 細身ではあるがかなり手入れのされた鋭いソードだった。
スティン 「使い方は分かるな」
タリス 「えっ？ でもこれ・・・ 本物だよ父さん」
しかし スティンは聞いていない。
スティン 「後ろは任せる 窓からくるぞ！」
・・・・
ドカッ バキッ！ 黒装束に身を固めたそいつらがいきなり窓と
ドアから飛び込んできた！
タリス 「な、 なんだこいつらぁ！？」
スティン 「斬れ！ タリス！」
とっさにタリスは剣を抜いた。
タリス 「か・・ 軽い？！」
その剣はいつも父との練習に使っていた鋳物のダミーに比べると
まるで風のように軽い。
タリスは抜いた勢いのまま窓からの侵入者に斬りかかった。
剣は旋風のように横一文字に銀の軌跡を描き、賊の腹を引き裂いた。
飛び込んで成すすべもなく斬りつけられた賊は勢いのまま床に転がり
悶絶を打っている。
タリスは動転して何かを叫びながら賊に上段から斬りかかった
スティン 「待て タリス！！ 殺すな！」
チャイーーーーーーーーーーーーーーーーーーン
スティンはタリスの降りおろす剣を自分のソードで受けとめ、賊を
にらみ付けた。
賊は既に戦意を喪失している。スティンは賊のフード（頭襟）を
剥ぎっとった。
細身で茶色い瞳の２０才位の男だ。額には何やら２匹の蛇が絡み
合ったような烙印がある。
スティン 「教団の者だな？！」
スティンは剣を突きつけて賊に問いかけた。
賊はスティンをにらみ返しなにやら口の中で呟き始めた。
スティン 「まずいっ！ タリスっ 窓から飛び出せ！」
とっさにスティンとタリスは賊の侵入してきた窓から飛び出し
転がるように畑へと走りだした。
賊 「ジーク！ シェルミラードぉーーーーーっ！」
叫びが上がると同時に納屋から閃光が放たれ、一瞬にして納屋は
猛火に包まれた。
それを見つめながらタリスはまだ抜けた膝をガタガタと震わせながら
呆然と座り込んでいた。
スティン 「ついに・・・この場所がばれてしまったか・・・」
タリスは力が抜け去った体を両手で支えながら振り絞るような
声で問いかけた。
タリス 「父さん、奴らは何なの？ 教団ってなに？」
スティン 「お前もそれを知らねばならぬ時が来たか・・・」
スティンとタリスは家に戻り、ダイニングの粗末なテーブルに腰を
下ろして、酒を注いだ。
スティン 「いいかよく聞いておけ」
そう言いながらスティンはカップに注いだウォッカを一気に飲み干し
話し始めた。
「ハイエマル教と呼ばれる奴らの宗教はグラム王サルサ４世とサリム王
ルシャールの支持を得て発達した宗教だ。
最初は教義も良く、国を安泰させるに足る物であったのだ。
だがしかし ２０年前の３の月、 教祖シェルミラードは奇跡を
得るために悪魔の封印を解いてしまったのだ。それを知った我々は
その野望を打ち砕くため兵を上げて教団と戦ったが奇跡に対抗する
すべもなく王は捕らわれの身となり、私はお前を守るためにここまで
逃げて来たと言うわけだ。」
タリスはうなずきながら聞いている。
「タリス、お前は一人前の剣士だ これから言う事よく聞いて己の道を
決めるが良い。
ここが 知れてしまった以上長居もできぬしお前に教える事もない。
私は、ハイエマル教に反旗を掲げ我が王サルサ様の弔いをするつもり
つもりでいる。
これは グラム王国の衛士長であった私の名誉の問題でもある。
しかしタリスよ お前にそれを強要する事はできぬ。
ここはフロラシアの辺境、東に向かえばローランだ。
よく考え好きにするがいい」
タリスは、喉に引っかかったような何かをウォッカで押し流して
答えた。
タリス 「行こう！ 父さん。」
スティン 「よし！ お前は今日から俺の相棒だ！
今までのように父として守ってやる事はできん。父さんと呼ぶな。
今日からは相棒のスティンだ！ いいな」
タリス 「ＯＫ 判ったよ 父さ・・ スティン」
「そうだ、さっきの剣 ・・・返しておくよ」
タリスは剣をさしだした。
スティン 「そいつは元々お前のために打ってもらった剣だ大事に使え
それからすぐに旅の支度をしておけ。明日早朝には発つ。」
