第２章 『ドレイク』３
先の戦闘でハイエマル戦艦から奪い取った羅針盤を設置し、ドレイクの船は一路本拠地へと向かった。 風は凪ぎ、実に穏やかな海原だ。日中照り付けていた灼熱の日差しがまるで嘘のように冷たい潮風がマストを 吹き抜けて行く。 しかし この船は静けさを取り戻したわけではないようだ。デッキでは海賊共が戦闘の勝利と戦利品の山を前に 酒を飲みながら歌い、踊り、騒ぎまわっている。 今宵は、新しい盟友を迎えたと有り、その馬鹿騒ぎは感極まっていた。 戦場では影を見ただけで足が竦むほどのドレイクその人だが、今はその片鱗を微塵も見せず ただの大酒のみの 一人である。皆と飲み、歌い、はしゃぎまわっていた。 「マリク！」 片隅で、物静かに杯を見つめていた彼にドレイクが大声で呼びながら近づいた。 「なにシケた面で飲んでやがる」ドレイクはマリクの顔を除きこむように酒臭い息で笑いかけた。 「ドレイク殿・・・」少し改まった表情でドレイクを見た。 「なんでぇ 改まって」 マリクは真剣な眼差しで続けた。「命を助けて頂いた上に不躾な願いまで聞き入れて いただきなんと礼を申し上げてよいか・・・」ドレイクはそこでマリクの言葉を制した。 「よせや、礼なんて言われる柄じゃあねぇ」ドレイクはマリクの前にドサっと腰を下ろし酒を一気に飲み干した。 「俺は気にいらねぇ奴をぶっ殺してぇだけだ、それにその世界に一つと言うそのお宝が気に入った！ オイ酒だ！」 ドレイクはでかいジョッキを持った腕を真横に延ばした。「へぃっ おかしらっ」パイクがそそくさとラム酒の 小樽をかついできた。「マリクさんも飲みますかい？」パイクはでかいジョッキになみなみと注ぎながらマリクに 目配せをした。 「いや・・・私は・・」マリクはおどおどした口調で答えた。 「飲んでおけ！ お近づきの印だぜ」ドレイクがマリクの杯を持つ手を引っ張った。 「私はそんなに酒に強い方では・・・」マリクはそう言ったがパイクは聞く耳を持っていないようで、マリクの杯に 樽を傾け零れるほどなみなみとラム酒を注ぐ。 「ははははっ」ドレイクは大笑いしながらジョッキ一杯の酒を飲み干した。 「ぷはっ！ うめぇ」 その豪快さにマリクはきょとんとしている。 「いいかマリクよく聞け」ドレイクは座った目を光らせてにらんだ。「酒はのめる時に浴びるほど飲むもんだ！」 「は・・はいっ」マリクは呆気に取られていた。 ズド〜ン 後ろで轟音が鳴り響いた。ズド〜ン ズド〜〜ン 「なにっ！？」 マストが震えるほどの轟音にマリクは立ち上がり構えを撮った。 「はっはっは 心配すんな ルフォイが祝砲をあげてんだよ」パイクが笑いながらマリクの背を叩いた。 「あ・・・・ははは」マリクは少し引きつった様に笑った。 「呆れたかい王子様？」ドレイクがマリクの肩を叩きながら言った。 「ええ 正直申し上げて・・・」 「これでいいんだよ俺達は」ドレイクは続けた。「ここには堅ッ苦しい規律など何もない。やるべき事をやれば すべて自分の自由にするがいい。笑う時は笑い、楽しむ時は楽しむ。明日笑える保証など無いのだからな・・・ 城でも戦の後は酒宴を設けるだろ？ あれがちょいと派手になったと思えばいい」 「もっと・・・こう・・・「鉄の戒律」のようなものがあるのかと思っていました。」マリクはドンチャン騒ぎを見つ めながらつぶやいた。 「ここは船の上だ 他にどこに行く事も出来ねぇだろ ここは戦場でもあり俺達の家でもある。こんだけのバカ共が 暮すにはちょいと狭いがな・・・だが庭は広いぜ、なんたってこの世界中が俺達の庭だからな」 「そうですね」
