デジタルフェアリー2   -- emregncy emergence --

「アルフっ!!」
・・−−−−・・
「アルフ・・・答えろ!?」
「ちっ・・・やはりさっきの変な光か!?」
一瞬 何かが眩しく光り、何かに頭の中をかきまわされた後 静寂と暗闇が襲ってきた。
 静寂? 暗闇? そうではない・・・。
そして目には今進入してきた通路が確かに見えてはいるのだ。
しかしなんだ・・・? この纏わり着く霧雨のようなじっとりとした重い闇と
耳鳴りのような静寂感は。
まるで宇宙飛行士訓練所の感覚剥奪室にいきなり放り込まれたようだ。
頭の中で感じているのは静寂と暗闇・・・そしてその事によって湧き上がる恐怖。
アルフとの精神感応通信もプッツリととだえてしまった。
当然だがネイとのネットワークも完全に遮断されちまっている。
今までに味わったこともないような孤立感と恐怖が心を支配している。
もともと相当にやばいヤマだとは思っていたんだ・・・。
この先何のサポートも無しでこんな虎の穴に侵入しろってのか?
・・・虎の穴の方がまだかわい気が有るってもんだ。
こんな手を打ってくると言うことは奴等に行動も全て筒抜けって事だ。
取り敢えず俺のセンサーは・・・生きてるようだな・・・光通信ユニットまでは
妨害できんだろう。
俺はポケットの中からリモートビットを取り出し前後に放り投げた。
これで最低限の安全確認は出来るだろう。付け焼き刃だが無いよりはマシだ。
こんな所で立ち止まっていても相手に時間を与えるだけだ。俺は身体中に染みこんでくる
不安と恐怖を代謝するように慎重にしかも速やかに前に進みはじめた。

事の起こりは先週の土曜日だった。
どうも土曜日の午後ってのは苦手だ。それが雨の午後となると一段とその予感が
現実になりそうで恐い。
俺はちょいとハードな仕事をこなした後で事務所のソファにそのまま
眠り込んじまっていた。
3日前から降り続く雨が鬱淘しさを更に増している。
トゥルルルルルル・・・トゥルルルルルル・・・・
その電話のベルは半醒半睡の俺の頭に狂気をかき立てるように鳴り響いていた。
トゥルルルルルル・・・トゥルルルルルル・・・・
「ネイ! 出ろっ!」
トゥルルルルルル・・・トゥルルルルルル・・・・
「ネイっ!!」
トゥルルルルルル・・・トゥルルルルルル・・・・
「ネイ いないよ」
「アルフ! 出ろっ!」
トゥルルルルルル・・・トゥルルルルルル・・・・
「はいはいっ・・・もしもしぃ? こちらSRI探偵事務所で〜す」
「・・・・・・・・」
「もしもし? どちらさまですか?」
「・・は・・・はぁ・・はぁ・・・」
「もしもし? 変態さんですかぁ?」
「・・・う・・っ・・・はぁはぁ・・・・」
「アルフ! 様子がおかしい・・・潜り込め!」
俺は咄嗟に直観のような物が働きアルフを電話の主にサイコダイブさせた。
「それじゃぁ ちょっとおじゃましまぁす・・・」
アルフはもともとテレパシー能力に特化されて作り出された妖精だ、
特定された人間の精神に潜り込むなど造作も無い事だ。
「・・・・・・・・・・ぎるびっと・・・たいへんたいへんっ!」
「わかってる! 焦らずにゆっくり聞き出せ」
「きゃああっ!!ギルビットぉ この人死にそうだよぉ!!」
「あぁ この様子じゃ助からん だがこいつは聞いておいたほうがよさそうだ」
「あ・・・死んじゃった」
「・・・・・・・・・・やばいな・・・」
その男から取り出した情報は惚けた俺の頭を一気に覚醒させた。
その男の名はファン・ユイリィ・・・ラオの店のオカマバーテンダー
突然 4人の黒服の族が現れ・・・と言うよりはそこに出現した様だ。
男達はラオの店を破壊したあげくラオを連れ去った。
ファンは黒服の4人を後ろから銃で狙ったようだが背後から刺された。
背後から?・・・どういうことだ?
なんだ・・・このマークは・・・バッジ? 社員章か?・・・赤い丸にVのマーク
ちょうどそこにネイモアが戻ってきた。
「よぉっ・・起きてたのか」
皮肉っぽくネイモアがブランディーのボトルを差し出しながら入ってきた。
最近ネイはどこかに出かける事が多くなった。
なにをしているか知られたくないのか通信を切っている事が多い。
まぁ 仕事に支障が有る訳ではないし、詮索した所で何の得にもならんだろう。
「厄介な山だぜ・・・ネイ。しかもノーギャラだ。」
「ぉぃぉぃ そんな仕事受けるなよな」
「ラオがさらわれちゃったのよぉ!」
とにかくコトの次第をネイに伝えた。
「・・・そういうことだ」
俺はアルフを介して事の顛末をネイにデータ転送した。
「打ち上げのつもりだったんだけどな・・・」
ネイモアはグラスを2つテーブルに置き、買ってきたばかりのルイ13世を
並々と注いで・・・一気に飲み干した。
「いいのですかネイ? 血液中アルコール濃度が急に上がっていますよ・・・
判断力が低下しています。」
「だまってろ寄生虫! 震えを止めただけだ」
俺もグラスのブランディーを一気に飲み干した。
「クっ・・・う・・っぷ」
「恐い・・・の? ぎるびっと?」
アルフが肩にとまり無意識に震えている俺の首筋を撫でている。
ラオの店は軍隊でもそうそうは乱入できない言わば一種の要塞のような物だ。
しかも実態よりもたちの悪い帯電高出力レーザによるホログラムビーストまで飼っている。
こいつの一撃は人間はおろかその辺のサイボーグやマシナリープラトゥーン(機械化兵)ですら
破壊できるほどの代物だ。
そいつを物ともせず侵入できる奴等・・・先ほど逝っちまったオカマ野郎だって
そのへんのマフィアですら尻尾を巻くような腕の立つ奴だった・・・。
それをいとも簡単にだ・・・
当然ネイもそれを知っているから震えているのだ。
「ネイ精神波不安定・・・自己矛盾率82.7% 思考パターン整理・・・中・・・
だめですっネイ この思考内での行動成就率は0.002%です。」
「だまってろ! ファルシオン」
ネイはもう一杯酒を注いだ。
「赤丸にVってぇと・・・」
ネイがポツリとつぶやいた・・・。
「VHI・・ヴァンダー重工だな・・・」
ネイのアシストブレイン、ファルシオンが無味乾燥にVHIのデータを列挙しはじめた。
「世界中の航空機の42.3%のシェアを持つ重工業企業、巨大財閥ベルンシュタイン
グループの頭角に位置する年商1200兆5千億ドルの・・・」
「黙れと言っている! ファルシオン」
「ネイ、脳波不安定、この電圧が安定しないような感覚はなんですか?」
「へっ・・・ファルシオンも恐怖って奴が分かるようになったようだぜ」
俺はアルフが初めて恐怖を憶えた時のことを思い出した。
「表向きはね・・・しかしVHIの真の収入源はほとんどが軍事産業だ・・・
戦闘機や爆撃機なんかはまだかわいい方だ。サイボーグやESP部隊の開発まで
やってるんだ。オイラも一度そこの研究室に行った事が有るからね」
「それがなんだってあんなオカマ野郎を連れてくんだよ?!」
「さぁね」
「まぁいい とにかくラオの店に行ってみるとしよう」
目的を達した奴等が戻ってくるとは思えんが一揃いの装備を整え急いでラオの店へと
向かった。
「こいつはひでぇ ファルシオン状況を分析しろ!」
「了解! ネイ、12.73秒お待ちください。」
既に現場はポリスガーディアンに押さえられ中に入るには時間を待つしかなさそうだ。
しかし よくもまぁ短時間にこんなにズタズタに出来る物だ。
しかもいやな奴がこっちを睨んでやがる・・・。
そいつが にやりと笑いながら近づいてきた。名前はギルモア、小汚ねぇトレンチコートに
安物の葉巻を咥えてなんともいけすかねぇ奴だ。
「やぁ 探偵諸君やけにお早いお着きですなぁ」
「治安維持課(ごみさらい)に用は無い」
「つれねぇなぁ・・・このまま公務執行妨害でショッ引いてもいいんだぜぇ」
しゃくれた顎を突き出しながら葉巻を突きつけて来た。
「俺はまだなにもやってないぜ」
「ふん・・・じゃあ警官侮辱罪だな」
「どうでもいいが ラオの店はどうしちまったんだ?」
「なぁおぃ そいつぁオレが聞きてぇんだょ おめぇ何か知ってんだろぉ」
「ダチから連絡があっただけだ それ以上は知らん」
「まぁいいや 取り敢えず署まで来てもらおぅか・・」
「てめぇっ!」 ネイがギルモアの胸座を掴んだ。
俺はその手をポンっと叩きネイを諌めた。
「飯ぐらいは食わせるんだろうな」
「へっ・・・賢くなったじゃねぇか、っま・・事情聴取って事にしといてやるぜ」
俺とネイはギルモアのパトロールクルーザーで半ば無理矢理ポリスガーディアン本庁に
連行される事になった。
『解析終了しましたが今報告しますか?』
ファルシオンがネイと俺に秘話通信で話しかけてきた。
『簡潔にたのむ・・・』俺は窓の外を見つめながら答えた。
『先ず破壊の状況ですが、火薬や薬品による爆発ではないようです。化学反応の痕跡が
見当たりません。破壊の規模はC4火薬60キログラムに匹敵しますが、見事にラオ大人
の店だけを破壊しています。
生存者は0、従業員のほかには客と思われる4名の死体を確認しました。
事件は今より21分14秒06前に発生、爆破直後の生体痕跡反応は6人、爆発後に
1名他の原因で死亡、これはファン・ユイリィだと思われます。つまり、あの爆破エリア
より5名の人間が立ち去っています。しかも爆破時にその6名だけは爆心にいながら生存
していた事になります。
電話によるとファンの死因は刺殺の可能性が高いようですが、外傷も凶器も見当たらない
ようです。直接の死因は検死解剖の結果が分からないと何とも言えませんね。
それから現場に無数の氷と思われる粒が散乱していました。』
『氷? 冷却液でも飛び散ったんじゃないのか?』
『ネイ、その可能性は有りますが エリア全体の温度が一瞬下がった方が説明がしやすい
ようです。氷の成分は今降っている雨の構成物と非常に似通っていますし 氷は爆心から
5m以上のエリア全体に均等に分布しています。』
『爆破による急激な気圧低下じゃないか?』
『89.22%それが正解だと思われますね。常温での爆発で一瞬に空気密度が下がり
その時に急激に温度が低下した物と思われます。通常は火薬などの発火により温度上昇を
伴いますのでそこまで気温が低下することは希です。
つまり爆発による温度上昇が無かった事になります。』
『どうも気に入らん事ばかりだな』
『今までに気に入った事件があったのですかギルバート?』
『くだらん事言ってねぇで続けろ!』
『現在分かっている事はこれだけです。』
「おぃぉぃ だんまりか? ギルバート」
運転席から怪訝そうにギルモアが話しかけてきた。
「運転の邪魔にならんようにな。 一般市民を乗せて事故るなよ、とっつぁん」
「ふんっ・・・生憎手が足りなくてな・・・まぁ心配するなこう見えてもサツになる前は
タクシードライバーだったんだぜぇ」
「どうせ3日くらいだろ」
「惜しぃな ネイモア、2日だ!
・・・で なんだぁ・・・ちったぁ話す気になったかギルバート」
「腹が減ったな・・・」
「ちっ・・・! わぁったよ・・・ジェイクの店でいいな」
ギルモアは吸いかけの葉巻を灰皿に突き刺して3番街に有るジェイクの店に向かった。
店に入ったギルモアは一番奥の壁際のボックスを選びどっかと腰を下ろした。
この店にしては珍しくすぐにボーイがやって来た。
「いらっしゃいませ警部、本日のおすすめは鹿肉のシチューとクラムチャウダー
になりますがいかがでしょうか?」
「マンハッタンか?」 ギルモアはポケットから葉巻を取り出しながらボーイに聞いた。
「クラムチャウダーですね? どちらでもご用意できますが」
「あぁ マンハッタン それにドライトーストとコーヒーだ。
おめぇらはどうすんだ?」
「でかいボウルに山盛りのサラダ・・・ニンジンはいらないよ」
「何だぁそりゃぁ?!」
「オイラはベジタリアンでね」
「俺はテキサスカット 3ポンド、レアでな・・・と
こちらの小さいレディーには野菜ジュースを。」
「ありがとっ ギルビット」
「・・あ・・・妖精・・ですか?」
「アルフって呼んでねっ」
「か・・かしこまりましたそれではごゆっくり」
「・・・で どこまで知ってるんだ?」
ギルモアはテーブルの端でマッチに火を付けゆっくりと葉巻に近づけた。
「多分爆発直後だろう ファンから事務所に電話が有った。
事切れる直前でな・・・黒服4人にラオが連れ去られたと・・・」
「族は4人か・・・ラオを拉致したんだな・・・それで・・・」
「それだけだ。」
「そぉれだけだとぉ?」
「ああ、ファンはそこで事切れちまった。それで飛んで来たって訳だ。」
「それにしちゃあちょいと重装備じゃねぇか?」
まぁ さすがに観察力はあるようだ
「ファンが殺られたんだ それなりの装備はして来るってもんだ」
「いつからそんなに用心深くなったんだぃ? ネイモア」
「おととい風呂で溺れかけた時から・・・だっけな・・・」
「・・・で なんでラオは連れ去られたんだ?」
「それを調べるのがあんたら(ごみさらい)の役目じゃないのか?」
「言うじゃねぇかギルバート。」
「善良なる一般市民の捜査協力ってやつだな」
「けっ・・・懐にブラスターぶら下げた一般市民かよっ」
「紳士の嗜みって奴でね・・・おっメシだメシだ」
ボーイが料理を運んで来た。
「お待たせいたしました。警部はコーヒーとトースト、クラムチャウダーでしたね
ギルバートさんはテキサスカットのレア、こちらがボウルサラダになります。
お嬢様・・・アルフ様にはフレッシュ野菜ジュースです。」
「おぼえてくれたのねぇ ありがとっ」
「オイラはネイモア・・・お見知りおきを・・・」
「ハイ ネイモア様、ではごゆっくり 楽しいお食事を」
まだギルモアは怪訝そうに俺の様子をうかがっている。
少しこちらからも情報を戴くことにするか・・・
「なあネイ、ファンはよくあの爆発で即死しなかったものだな」
「まぁ タフな奴だって話だったからな・・・奴はもう霊安室か?ギルモア」
「さぁな その前にちょいとかっ捌かれるだろうがな。」
「おいおい ボロボロの死体をかっ捌くのかよ」
「何言ってやがる奇麗なもんだぜ五体満足でよぉ・・・はて?
不思議なもんだなぁ・・爆死したにしちゃあ埃一つ・・・」
「大方割れた瓶でも突き刺さったんじゃないのか?」
「ダチの死因も分からないんじゃ寝覚めが悪いな」
「わぁった わぁったからちょいとまちな」
ギルモアは電話を取り出し検死に連絡を取った。
「G2012号の死因だが・・・そうか・・・妙だな・・・ありがとよ」
「どうかしたのか警部?」
「あぁ 妙だな 外傷が一つも無いそうだ。
打撲痕も火傷も、それにだな・・・まぁいいかここだけの話にしといてくれや・・・
ガラスによる左肩甲骨下部から肺を斜め下に貫通する裂傷だとよ・・・
左肺動脈の断裂による失血が直接の死因だそうだ。」
「外傷も無いのにか?」
「あぁ そうだ。どっから入ったかは分からんがガラスが背中から肺に向かって
突き刺さってるんだとよ。長さ16cm幅5cmもの鋭利なナイフ状のデカ物がな」
どこからどう考えても敵には厄介なESP使いが居るようだ。
サイボーグならまだしも、ポリスガーディアンにはESP兵士など信じる者も
いないだろう・・・これ以上こちらから情報を提供する必要もなさそうだ。
「さて・・食っちまったらもう少し付き合ってもらうぜ」
「ファンに会えるならな。」
「ぉぃぉぃ 無理ばっかり言ってんじゃねぇよ」
「奴に身寄りは無いはずだ 俺が引き受けて葬儀も出す。それでいいだろ」
「わぁった! かなわねぇなぁ・・・だが、そりゃ 話の後だ。
ボーイっ! チェックだ!」
「はい 52$と75¢です。」
「治安維持課に請求しといてくれ。」
「かしこまりました。・・・あの・・」
「ほらよっ こりゃおめぇの分だ。」ギルモアはテーブルに5$残して立ち上がった。
「ありがとうございました。 またごひいきに」
雨は止んでいた。
滅多に雨の降らないロスでこんな雨が降る時はろくなことがない。
ダチをさらわれた上によりによって一番会いたくない野郎に一番行きたくない場所に
連行される羽目になっちまった。
取り調べ室にぶち込まれなかっただけまだマシだろう。
だだっ広い会議室で3時間ほどギルモアに根掘り葉掘り聞かれたが知らない物は
答えようが無い。取り敢えず公僕の連中にも動いてもらえるようにヴァンダー重工の
情報だけはリークさせておいた。これで少しは敵をかき回してくれるだろう。
「VHIだとぉ?! なんでおめぇらにそれがわかったんだ?」
「ダイニングメッセージよっ!」
「ダイイングだろ? アルフ」
「そ・・そうよっ! ファンが電話で言ってたの 赤い丸にVの字って」
「ふんっ・・確かにな、VHIの社員章だなそりゃ・・・
まぁいい これ以上は喋らんようだな・・・」
「ならば俺達もおいとまさせていただこうか」
「ちっ・・まぁ せいぜい気をつけるんだな 善良な一般市民様よっ
ファンはB2Fの霊安室だ さっさと連れていきやがれ」
「次に呼ぶ時はコニャックを用意しといてくれ ギルモア」
「長い付き合いの誼だ こいつだけは言っとくぜ・・・
このヤマは相当にヤバい匂いがする 手ぇだすな」
「あんたに言われるまでもない。」
そう言って俺達はエレベータホールへ向かった。
気は進まないがファンを無縁仏にするのも寝覚めが悪い。弔いはラオを救出してからに
なりそうだが、葬儀だけでも出してやるとするか。
ともあれ5番街にあるブラウン神父の教会に向かう。
ブラウン神父は敬謙な神父様ではあるが、俺の商売敵でもある。
「おぉ 神をも恐れぬ方が教会に来るとはめずらしい・・・しかし懺悔することによって
貴方の罪も許されますぞ」皮肉たっぷりのツラでこちらに向かってきやがった。
「ごたくはどうでもいい 葬儀を頼む。」こいつとはあまり話したくない。
神の名を借りて処刑人を気取る 有る意味ギルモアよりもいけすかねぇ奴だ。
そうそうに埋葬だけを行い(とは言っても冷凍安置するだけなのだが・・・)
事務所に戻ることにした。
「ギルバート」やや不安気にネイモアが切り出した。
「このヤマはちょっと気になる事が有る・・・おいらは先に穴蔵でやっときたい事が
あるんだが・・・」
「ハゲ(ラオ)の店の地下か・・・まぁ あそこは潰れちゃあいねぇだろ奴等が戻って
来るとは思えんが気をつけな」
「私が付いております。Lev5で警戒していますのでご安心を・・・」
ファルシオンが無表情に脳に語りかける。
「任せちゃうわよっ ファルっ 」アルフが屈託の無い笑顔でネイを見送った。
「アルフ 俺のマシンは?」
「真後ろまで誘導してるわよっ」
「上出来だっ」俺はアルフの頭をなでながら愛車に跨がった。
ズドンっ 一気にキックを踏み込む。
ボっ・・・ぼっぼっ・・・重低音の振動が右手のセンサーに響く。
「ねぇ ギルビット?」
「ギルバートだっ」どうして こいつは俺の名前だけ覚えねぇのか・・・
「なんでわざわざ いつもそんな重たいキックペダルでイグニッションするの?」
「気合いだよ 気合いっ」
「き・あ・い?」
「あぁ こいつをやることでてめぇにやる気を起させてるのさ・・・
 特に・・・こんなブルーな日にはな・・・」
バンカーストリートを抜けて事務所に戻ったころには既に日付が変わっていた。
時代錯誤なメッシュ張りの錆びたエレベータを上り切ったところで
金網のドア越しに人影が動いた。
見知らぬ女だ。雨の中を歩いて来たのか、笠の先からまだ雫が滴り落ちている。
見掛けは20才半ばほどスレンダーなボディーに黒いギャバディーンのスーツ、
そのせいか足元の真っ赤な靴がやけに目立つ。
エレベータの開く音に気付き振り向いた光るようなブルーアイが俺の目を捕らえた。
「仕事の依頼なら日を改めてもらえるかな?」
しかし女は無言でこちらを向いている。
やがて何かを思い付いたように俺の横をすり抜けてエレベータの檻の中へと駆け込んだ。
「変な人ぉ 『ブレインじゃない・・・』・・だって」
こういう時はアルフの能力が便利だが・・・はてブレイン?
ここにはそういう奴はいないが 脳(ブレイン)識者?それとも何かの呼び名か?
まぁ 今気にすることでも無い、とにかく中に入ってこれからの対策を考えなければ。
俺は部屋に入るとテーブルの上に有ったグラスにブランデーを注ぎ雨の降る夜の街を
窓越しに見つめていた。
濡れた窓ガラスに乱反射するネオンの光がやけにまぶしい。
遠くを見つめていた視線をふと下に降ろすとこの雨の中に笠をさしてたたずんでいる影が
目に入った。
笠の端から真っ赤な靴が見える。さっきの女か?
いくら間違いだとしてもさすがに気になる物は気になる。
「まったくぅ 奇麗な女性を見るといつもこうなんだから・・・」
アルフが不機嫌そうにつぶやいた。
奇麗かどうかは別にして あのままほうっておくわけにもいくまい、俺は足早に部屋を出た。
「あんっ もぅ 待ってよぉ ギルビット」
アルフも閉まりかけのドアをすり抜けるように飛び出してきた。
しかし エレベータが下に着いた時には既にその女は消えていた。
つい先程までそこにいたことを示すように濡れた笠だけが道路の脇に転がっている。
赤い靴履いてた女の子・・・異人さんにつられて・・ってか?
いなくなったものは仕方ない、取り敢えず事務所に戻ってVHIに乗り込む算段でもするか。
もう一度部屋に戻った俺はグラスに残ったブランデーを一気に飲み干してソファに
どっかりと腰を下ろした。
さすがに目蓋が重い。ラオの一件から既に何日も立ったような気分だ。
だが そのわずかな睡眠を妨げるように電話が鳴り響いた。
「SRI探偵事務所だっ」 不機嫌に告げる。
「ネイモアか?」
「いや 奴は留守だ」
「第三倉庫まで来い・・・ガチゃっ・・・つー・つー・つー」
何だ?いきなり・・・ ネイ? 第三倉庫だと?
「アルフ 出かけるぞ! ネイに連絡しておけ」
「りょーかいっ ネイは寝てるみたいだからファルに伝えておくね」
倉庫街は目と鼻の先だが なによりああ言った類の電話の後は良いことが有るわけがない。
さて第三倉庫の前まで来たが 鉄のドアは固く閉ざされている。
「アルフ 探れるか?」
「中には誰もいないわ 生態反応も思考反応も無いみたい」
仕方ない 入ってみるしかなさそうだな・・・俺はネットワークからオートロックキーを
アクセスした・・・カシっ・・・
「よし これでOKだ 入るぞ」
中に入ると突然冷たい空気が吹き出してきた。冷凍倉庫・・・か、しかし暗いな
俺は目のセンサーゲインを上げ周りを見渡した。チリチリとノイズが走る。
そのノイズに紛れて倉庫の天井から何かがぶら下がっているのがわかった。
確かに生態反応は無い・・・がしかしそのぶら下がっている何かは回りよりも幾分温度が
高いのがわかる。
「アルフ 何かわかるか?」
アルフは一直線にその物体に向かって飛んでいった。
「きゃあぁぁっ 人よ! 女の・・・さっきの」
なんとなく予感はしていたがやはりそういう事か・・・
「ネイに知らせろ それからポリスにもだ」
やっとの事でライトのスイッチを見つけ辺りが水銀灯独特の青いぼけた灯に包まれた。
「ちっ・・・ご丁寧に十字架かよ・・・異人さんの方がまだ良かったな・・・」
天井から釣り下げられた大きな十字架に組んだ鉄骨がかすかな音をたてながら揺れている。
その真ん中に素っ裸に剥かれてチェーンで括りつけられている姿がやけに白い。
灯がともるのを見計らったようにポケットの中の電話が鳴った。
「手を引く事だ・・がちゃっ」
「まてぃっ・・!  つー・つー・つー・・・・」
てぇ事はだ、こいつもVHIのつながりか・・・
「ねぇねぇ この人死んでるよぉ」
アルフが不思議そうに十字架の回りを飛んでいる。
「そんなこたぁ解ってる!」
「ううん そうじゃなくて 無いのよっ!
傷も 殴られた後も 通電の後も 毒物反応も なんにも」
またかよ・・・どうせ殺ったのはサイキッカーだ 今度は心臓でも握り潰したか?
たとえ傷が無かろうが ばらばらにミンチにされていようがもう驚きはしない。
「よぉし 下手な事を考えるんじゃねぇぞ 壁に手を突き足を開けぃっ!」
後ろからハンマー(撃鉄)を起す音と聞きなれた声がした。
「協力者を逮捕するつもりか?ギルモア」
「ちぇっ またおまえか」 ギルモアは怪訝そうに銃をホルスターに仕舞い込んだ。
「ふんっ 1日に2度も旧友とお話しが出来るたぁついてるぜ」
「残念だったな 既に日付は変わっちまってるぜ」
「ケっ 口の減らねぇ奴だな そう言わずに署でコーヒーでも飲みながら話を聞こうか・・・
インスタントだがな」
まぁこの状況で逆らっても得にはならなんだろう、なによりもこの女の検死報告も気になる。
警察署への道すがら俺は事の次第をギルモアに説明した。
「それじゃあ何か? おめぇはあの女の事は何も知らんと言うわけだな」
「そういう事だ 後はネイがここに向かっている」
「でも なんで死んじゃったのかなぁ あの人・・・」
アルフがまた不思議そうに聞く。
「そうだ ギルモアさっき話した通りあの女には致死的痕跡が無い様だが・・・」
「わぁったわぁった! そのくれぇの事は聞いてやるからもぅちっと詳しく話してくれ」
「詳しくも何も 今までの話で全部 That’s All」
「それじゃあ 女も電話の主も知らねぇってんだな」
ギルモアは不機嫌に葉巻に火をつける。
「女はともかく 電話の主は大体想像がつくがね」
「VHI・・・絡みってか・・・」
「まず間違いは無いだろう」
「だから 手ぇ出すなって言ったろう」
「まだ何もやっちゃないぜ ここから事務所に戻っただけでな・・・
 部屋で酒を煽ってる間に知らない女が殺されただけだ。
 コーヒーをもう一杯もらえるかな? 出来ればインスタントじゃないやつを」
「ふんっ おいっ署で一番いいインスタントコーヒーをドリップで入れて来いっ」
ギルモアはそばにいた新米風の警官を怒鳴った。
「おいらにも一杯たのめるかい? それからなんか食い物・・・カツ丼でもいいぜ」
会議室の扉を勢いよく開けネイモアが入ってきた。
「遅かったなネイ おめぇは取り調べ室のほうが似合ってるぜ おぃ」
「遠慮しとくよ カツ丼はやめだ。それよりギルモア その美人はどこだ?」
「心当たりでも有りそうな口ぶりだな ネイ」
ギルモアは上目使いで葉巻をもみ消しながら言った。
「無ければいいんだがな・・・」
「霊安室(こっち)だ着いて来な」
俺達はギルモアの案内で2度目の霊安室に向かった。
「G・・1032号・・・と こいつだ」
プシュ・・・・冷凍保存庫の冷たいハッチが開き先程の女が出てきた。
「どうだ? 顔見知りか?」ギルモアはネイに目配せした。
「残念だがそのようだね この娘はDOFテクノロジー社でおいらの相棒だった女だ
名前はエレナ、エレナ=ディーブル 担当はバイオエレクトロニクスだ。」
「おまえさんの コレか?」ギルモアは下品に小指を立ててみせた。
「いや・・・ただの仕事仲間だった・・が いつもいっしょにいたんでVHIの奴等も
そう思ったに違いない。 かわいそうな事をした。所持品は?」
「このとおり 素っ裸で十字架に釣られてたからなぁ 所持品って言われてもなぁ」
「そうか・・・」その時真っ赤な靴がネイモアの目に止まった。
「こいつを形見にもらっていいかな?」
「ああ そいつはもう取り調べ済みだ。持ってくのは構わんがそんな趣味でも有ったのか?」
「趣味はどうでもいいけどね この娘には身寄りが無いはずだ。
おいらが持っててやることにするよ。あとは丁重に頼む。」
「ああ わかった。・・でこいつの死因だがな・・・」
ギルモアはポケットからごそごそとビニール袋を取り出した。
「こいつが心臓・・・右心室上部を突き破っていたそうだ。」
ビニールの中に入っていたのは45口径の弾丸で銀の弾頭に十字が刻んである。
しかも薬莢が付いたままのものだ。ギルモアがまた頭を抱えている。
「なぁギルモア、おまえは現実主義だから信じねぇかも知れねぇが奴等は一種の魔法使いだ」
「なんだとぉ そんな事が報告書に書けるとでも思ってんのかよ おぃ!・・・」
その後をアルフが続けた。
「そんな馬鹿げた事件で署に足留め食らっちまって また休み無しかよ・・・この調子で
2、3日家に帰れなかった日にゃぁ かみさんも口聞いてくれなくなっちまう〜っ。」
「・・・・・・・!」ギルモアは自分の言葉をそのままアルフに取られて唖然とした。
「判ったかい? アルフはテレパシーに特化されて作られた人工生命体だ。」
「ま・・・まさか・・・こいつはAI機械(ドール)じゃなかったんかよ」
「ハイテクは信じられてもここまで来ると信じられねぇか? 
だがおまえの目の前にいるのは本物の妖精だぜ。しかも強烈なサイキッカーのな。」
その後をネイモアが続けた。
「アルフはおいらの作品だ。ギルモア、おまえも聞きかじった事くらいはあるだろ。
 マシナリープラトゥーンってのを」
「ああ 機械化部隊 サイボーグってやつだな・・・」
「おいらはその次世代部隊 サイキックプラトゥーン・・・つまり超能力部隊と言う
プロジェクトにいた事が有る。」
「なんだとっ!」普段でも丸いギルモアの目がさらに丸くなった。
「そこでは才能の有る人材の能力を強化するプランやおいらのやっていた能力を持った者を
作り出すプランを研究している。アルフはおいらの美学によりDNAレベルから作り上げた
芸術作品だ。」
「てぇ事は VHIもそのプロジェクトに荷担して・・・」
「おそらくそれが○だな。友人の誼みでこれだけバラしてやったんだ。この辺で失礼させてもらうぜ。
まっ・・帰ってかみさんと一杯ヤッて寝るこった。どうせこのヤマは上からの圧力で動けんだろうからな。」
信じられない事実を突きつけられて呆然としているギルモアの方をポンとたたいて俺達は
ポリスガーディアンを後にした。
雨はまだやまない。
土砂降りの雨からいつしか しとしとと降りしきる雨に変わったようだ。
それはまるで辺りの重い雰囲気を染み込ませたようにアスファルトに降り注ぎ
そしてそれを押しつぶす何台もの車の音が白みはじめた朝の空気の中で妙に響き渡る。
「ねぇねぇ どうするの? どうやってラオさんを助け出すの?」
「ん・・ああ そうだな・・・まずVHIのセキュリティーシステムをうまく寝かせる
方法が有ればな・・・」
「現段階のデータからでは100%制御する方法は推測できません。オンライン
セキュリティーの無効化確率は32.4%、その他のセキュリティー存在も考慮に入れて」
「もういい ファル! データだけでは話にならない。」
うちのバイオコンピュータ、ネイモアもかなりいらいらしているらしい。
ネイの同僚があんな殺され方をした後だ 無理も無い。
「正面玄関から訪問するさ。」
「な・・・っ!」ネイモアは呆れて言葉に詰まった。
「どんな策を講じても大して変わらなきゃ正面から入ってみるがいい。
 一般社員がいる明日がいいだろう。」
「確かにな・・・その方が相手も下手な動きはできないだろうからね・・・
それじゃあおいらは穴蔵からサポートするよ。」
「OK あとは出たとこ勝負だな。」
「そうと決まればおいらは穴蔵に行って準備にかかるよ。」
ネイはそう言うとエレナの赤い靴を片手にドアへ向かった。
「おぃおぃ ほんとにそういう趣味が有るのか?」
「どうだかね・・・でもこいつが有ると落ち付くのさ。特にこういう日はね・・・」
「あ・・ネイっ・・・」アルフがネイにダイブしようとした。
「アルフ! 無粋なことはするもんじゃない。覗かれたくない物も有るさ。」
「大丈夫さ ギルバート、それじゃ突入は12時ジャストに。」
ネイはそういって事務所のドアを閉じた。
さて そうは言ったものの難攻不落の要塞に正面からどう進入したものか・・・
VHI本社はマクファーソン通りの中央に有る72階建ての巨大ビルだ。
見た目はただのでかいビルだがネットワークからも進入が困難で256ビットクラスの
セキュリティーが何重にもかけられている。
いつものように簡単にセキュリティーを解除してドアロックを開けて回るわけにも行かない。
もちろんオフラインやマニュアルセキュリティーも、それどころかどんなえげつない
ガードシステムが有るか分かった物では無い。
当然の事だが一般社員には分かりもしない危ないガードシステムがそこら中に
仕掛けられていると見て間違いは無いだろう。
出来る限りの装備はして行くさ。
あとは想像で動くよりも現場の判断って奴だな。明日に備えて眠るとしよう。
「社長はいるかい?」
12時ジャスト。俺は受付けに付いた。
「は? あの アポイントは?」
ハイテクビルには今時めずらしく受付けに受付嬢を使っている。
「緊急の要件だ。今から会いに行くと伝えてくれ。」
俺はそういってゲートにづかづかと近づいていった。
「あの・・・ちょっと・・・困ります。 そこはセキュリティーカードが無いと・・・」
カードロックにアルフが座り髪の毛を端子に接続する。
「良い子だから開けてねっ・・・」
カシっ・・・・ドアロックが解除する音だ。
「え・・・っ あの・・・」 受付嬢が驚くのも無理も無い。
VHIが誇る鉄壁のセキュリティがいとも簡単に解除されたのだ。
もちろんネイの不眠不休のハッキングの成果なのだが・・・
「お友達なのさ・・・そういう事だ、よろしく伝えておいてくれ。」
彼女にそう告げるとゲートをくぐりエレベータホールへと向かった。
『ギルバート ゲート侵入完了。コレよりレベル5でサポート開始します。』
ファルシオンの理屈っぽい脳波がめいっぱいのゲインで頭に響き渡る。
「なにこれぇ あったま痛くなるわよぉ もぉぉ 最大ゲインじゃないの。
ちゃんと最適ゲインでやりなさいよぉ」
俺よりも先にアルフの方が悲鳴を上げた。
「御手柔らかに頼むぜ相棒(ネイ)!」
さて、とにかく72階の社長室をめざしてエレベータにでも乗るとするか・・・。
ま・・素直にお通し願えるとは思えないがな。
「ネイ、エレベータは確保してあるか?」
「ハイ。現在4号エレベータを確保。社員用エレベータでは60階まで登る事がで来ます。」
「ファルシオンか?」
「ハイ ネイはその後の作業にかかっています。」
何とも固ッ苦しいサポートだ。アルフが脳内に住み付いてる時のことを思い出すぜ。
「悪かったわねっ どうせ堅物でしたわよっ」
あはは 悪い悪い。俺の思考はそのままアルフに直結してるんだったな。
とにかくその4号エレベータってのはどれだ? ・・・とこいつか
「あと3.4秒後に到着します。」
まぁ 細かいこと・・・と、さて こいつに乗ってともあれ60階まで行けばいいんだな。
一般用のエレベータは60階まで・・と言うことはそこから先は、だいたい想像がつく。
それまでは 手厚いもてなしも無いだろう。
「ファル、エレベータ内になにか異常はないか?」
「これといって作為的な物は有りません。ただのエレベータです。操作系のシステムは
いまのところこちらが押さえてありますので60階までの安全率は95.2%です。」
「なんだ?残りの5%は?」
「通常のエレベータ事故です。あり得る事では有りませんがケーブルの断線、駆動系のトラ
ブルなどなどです。」
その辺は気にしないでおこう。エレベータは何事も無いように上に向かって加速を続けた。
さすがにかなりの高速エレベータだ。おそらく落下するスピードよりも早いだろう。
「あと4.2秒後に60階に到達します。エレベータの外には動体反応は有りません。」
ファルのお告げ通り何事も無くエレベータは俺達を60階まで運んだ。
「突き当たりのドアを入って左側に特殊エレベータが配置されています。」
「特殊だと?」
「ええ 地下から60階以上に直通の物のようですが・・・」
おそらく一般社員が見るとこもできないような代物を運ぶためだな・・・
「で、そいつは使えるのか?」
「いえ、オフライン操作のため詳細は不明です。」
「臭いな・・・」
「何か匂いますか?この階のエアコンディションは気圧850hp構成気体は・・・」
「そう言う意味じゃないでしょっ 怪しいのっ!」
アルフ、ナイスフォロー・・・しかしボキャブラがとぼしいのか・・・
「記録しておきます。」
ぉぃぉぃ・・・さてと・・こいつがそのエレベータ・・・か。
でかいな、しかもご丁寧にこの階に止まってやがる。ますます匂うね。
「とりあえず開けてみるか。」
「だいじょうぶぅ?中にはだれもいないけどぉ・・・」
ガコーン! 少々派手な音をたてて扉が開いた。
中は10m四方はあるか・・・やはり特殊な物の搬送用らしい。
「乗るの?」
「やめたほうがいいですよギルバート。危険度が82.4%です。」
ファルのその数字の根拠がどこから来ているかは知らないが俺の感もヤバいと言っている。
しかし不用意にこいつを動かされるのもおもしろくない・・・俺は扉の端にその部屋の
隅に落ちていたガラクタを詰めこみ閉じないように細工し、試しにキャスター付きの椅子を
エレベータの中に滑り込ませてみた。
キンっ! 中で何か甲高い音が響いたかと思うとエレベータが目の前から消え
ぽっかりと空いた扉の中から落下音が響いている。
「まっ・・こんなトラップは初歩ねっ」
アルフが得意気に胸を張る。
ここから先は早々簡単には登らせてはくれないらしい。
ファルの情報によるともう一機エレベータが有るらしいがそれも似たような物だろう。
あとは東西に有る階段を登るしか無いらしいな。
こいつも何が仕掛けてあるか分からないが壁をよじ登るわけにもいかんだろう、
俺はアルフをつれて東の階段へ向かった。
「見取り図によるとそちらの階段は70階まで登れるようになっています。」
「分かった!」俺は慎重に階段の扉を開けた。
見たところは何の変哲も無い階段のようだ。
ゴソゴソ・・・俺はポケットの中からセンサービットを取り出し、階段へと投げ入れた。
「アルフ 解析頼むぞ」
ビットはセンサーを張り巡らしながら一気に70階まで登っていく。
「クラック反応なし。 熱源、爆発物、動体反応なし。気体構成正常・・・っと
ちょっとまって・・・69階に登る踊り場に何か有るみたい。」
「分かるか?ファルシオン」
「壁の中になにかタンク状のものがありますね・・・圧力に耐える物のようです。
推測率70%でシアン系のガスかそれに類する物が入っていそうですね」
俺はポケットの中のピルケースから半透明のタブレットを取り出した。
「アルフ こいつを舐めておけ おまじないだ。」
「ぺろっ・・・うぐっ・・なにこれ渋酸っぱぁい!!」
「チオ硫酸ナトリウム・・・ハイポだ少量のシアン系毒素なら中和できる。」
俺もタブレットを口の中にほうりこんだ。なんともいやな味だ。
とは言え皮膚から入る程度の毒素しか中和できる訳ではないが即死するよりはましだ。
「兎に角68階まで登ろう。」
センサービットを回収して68階の扉を開いた。
一本道の通路の先に扉が見える。
「様子を見てくるねっ!」
アルフが飛び込もうとした時に廊下の中央で何か光った様な気がした。
「まてっ!」とっさにアルフを捕まえた。俺の感がなにかヤバい雰囲気を察知した。
よく目を凝らす・・・が何も見えない。
しかし 何となくだが張り詰めた空気のような物が漂っている。
「さすがだね ギルバート。」
「ネイか? 何か有るのか?」
「単分子炭素の結晶連鎖・・・つまりダイヤモンドチェーンだね 無数に張巡らしてあるぜ
陰険なトラップだな・・・飛び込んでたらミンチになってたよ。」
「なるほどな 10nm(ナノメートル)のクモの巣ってわけだ・・・なにか方法は?ネイ」
「そうだな 相手は炭素だ焼き払うしかないな・・・ビットのフレアを使おう。」
もともとこのフレアというのは逃げる時の目眩し用にビットに備えている機能だが
こんなとこで役に立つとはね・・・
原理は簡単で、中に仕込んである粉末のマグネシウムと圧縮したアルコールを
一気に気化して辺りに撒き散らし着火すると言う単純な物だ。
爆発というほど派手ではないが数分間は視力を失うほどの閃光を放つ。
「アルフ こっちを向いて目を閉じてろ 一気に蒸発させるぞ。」
パシュッ・・・カッッッッ・・・・ 廊下の中央に放ったセンサービットが閃光を放った。
目を閉じていてもクラクラするほどの光だ。
「どうだネイ?」
「上出来(Well Done)っ かけらも残ってないぜ」
まさにウェルダン よく焼けたようだ。先を急ごう。
突き当たりのドアを開く。鍵はかかっていないようだ。
「左のドアを出て最初の角を右に曲がったところに階段が有るはずだ。」
ネイのサポートになってすこしは気が楽になった。
角にさしかかったところでアルフが先行して偵察に出た。
あんなトラップは幾重に貼っても意味が無いが用心にこしたことはない。
アルフが角を曲がった時に廊下全体が一瞬眩しく光った。
「きゃっ・・なにこれっ! まぶ・・し・・・・・・・・」
「アルフっ!!」
・・−−−−・・
「アルフ・・・答えろ!?」
一瞬 何かが眩しく光り、何かに頭の中をかきまわされた後 静寂と暗闇が襲ってきた。
 静寂? 暗闇? そうではない・・・。
そして目には今進入してきた通路が確かに見えてはいるのだ。
しかしなんだ・・・? この纏わり着く霧雨のようなじっとりとした重い闇と
耳鳴りのような静寂感は。
まるで宇宙飛行士訓練所の感覚剥奪室にいきなり放り込まれたようだ。
頭の中で感じているのは静寂と暗闇・・・そしてその事によって湧き上がる恐怖。
アルフとの精神感応通信もプッツリととだえてしまった。
当然だがネイとのネットワークも完全に遮断されちまっている。
今までに味わったこともないような孤立感と恐怖が心を支配している。
もともと相当にやばいヤマだとは思っていたんだ・・・。
この先何のサポートも無しでこんな虎の穴に侵入しろってのか?
・・・虎の穴の方がまだかわい気が有るってもんだ。
こんな手を打ってくると言うことは奴等に行動も全て筒抜けって事だ。
取り敢えず俺のセンサーは・・・生きてるようだな・・・光通信ユニットまでは
妨害できんだろう。
俺はポケットの中からリモートビットを取り出し前後に放り投げた。
これで最低限の安全確認は出来るだろう。付け焼き刃だが無いよりはマシだ。
こんな所で立ち止まっていても相手に時間を与えるだけだ。俺は身体中に染みこんでくる
不安と恐怖を代謝するように慎重にしかも速やかに前に進みはじめた。
ネイの情報通り確かにそこには階段があった。
罠の類は無いようだが、踊り場の両脇に2台の監視カメラが睨みつけている。
何のカモフラージュも無くあからさまに階段の踊り場に設置されこちらの様子を伺っている。
どうせコイツを叩き壊したところで状況は好転することは無いだろう。
下手に手を出すよりもこんなものは無視して行くことにしよう。
それよりも気になるのはこの染み込むような静寂だ。
まるで鼓膜を見えない何かで圧迫されるような、自分の足音さえもかき消されてしまう
不自然なまでの静寂。
クォーターダラー(25セントコイン)を階段に投げてみる。
しかし その音は何をどうした事か、けして悪くはない両方の耳には届いてこない。
目を閉じ耳をすましてもその妙な威圧感から抜け出す事ができない。
その圧迫感は次第にイラツキに変わり思考力を低下させる。
待てよ?! 何かおかしい。
感覚剥奪室の中ですらこんなにいらついたことは無かった。
いや むしろあの中では落ち着きすら感じていたはずだ。
俺は自分の手首に指をあててみた。・・・ドクドクドクッ・・・心拍数が異様に早い!
緊張はしているが分間150はオーバーしている早さだ。
しまった! もしや・・・
ビットのセンサーモードを振動関知に変更。
やはりコイツかっ!
ビットのセンサーは38000Hzと38003Hzの音を関知している。
しかも 音圧は240db(デシベル)。  なんてこった・・・!
耳には聞こえない音・・超音波を大音響で流し鼓膜を圧迫する事で
他の音が聞こえないようにされていたのか。
しかもご丁寧に3Hzの位相をずらした音の干渉で分間180回のうねりを作り出している。
人間って奴は変な物で外部からの一定の振動や音、音楽で言うバスドラムやベースのビート
に合わせて心拍数が上がったり下がったりする。
クイズ番組なんかでBGMのビートを徐々に上げ冷静な判断ができないようにするあれだ。
念の入った演出にすっかり乗せられちまったようだ。
音源は・・・どこだ?
2つのビットを使えば・・・・クソっ あの監視カメラか・・・
ブラスターを抜き2台の監視カメラを撃った。
キーーーン・・・・っ カメラが壊れた瞬間耳鳴りが走る。
大音響の超音波から開放された鼓膜が悲鳴を上げているようだ。
ん・・・ネットワークのワイヤレスリンクも回復した。
どうやら電波のECMも兼ねていたようだ。
しかし なぜかネイの通信は回復しない。
「ネイっ どうした? ネイ・・・」
ジャミングされている間にネイに何かあったのか?
とりあえず耳とネットワークが回復しただけでも良しとするか。
その時社内放送の音が耳に入ってきた。
「ようこそヴァンダー重工業本社ビルへ ギルバート君」
VHI社長 レイノルド・R・フォスターその人の声だ。
「・・ったく聴力が回復して最初に聞こえた音がこれかよ」
「私のもてなしは気に入ってくれたかね?」
「この絡繰りに気がつかなきゃ その嫌味な声も聞かずにすんだがな」
「君がどの位聡明な男か見てみたくてね、不躾なもてなしについては詫びるとしよう。
私はこの階に有る社長室でまっている。正式にご招待しよう。
無論君の御友人と愛らしいペットもこちらに御招きしてある。
もう無粋な仕掛けなど施しておらんから安心してくれたまえ。」
けったくそ悪いがせっかくのご招待だ 断るわけにも行くまい。
俺は70階の階段から続く廊下の突き当たりにあるこのビルには不釣り合いな
豪勢な彫刻を施されたローズウッドの扉を開いた。
正面の大きな机の前に小柄な男が立っている。
「ようこそ ギルバート君」
その男がこちらを向き話しかけた。どうやら社長のレイノルド本人のようだ。
その横にはややイカツイ黒服の男と黒服に押さえられるようにラオ大人が立っている。
そして机の上のやや大きめの鳥篭のようなものにアルフが入れられている。
どうやら特殊なシールドがしてあるらしくアルフとのコミュニケーションは取れないようだ。
「あいやぁ ギルバートほんとにここまで来たね でもこいつらちょと危ない人達よ」
「そんなこたぁ 聞くまでもない。さぁ帰るぞラオ」
「人聞きの悪い事を言われては困りますな。私共はただの商人ですよ。」
「ただの商人が拉致や殺人までやるってぇのか?」
「お客様のニーズにお応えするためには多少のリスクは覚悟するものです。」
「こいつらあたしにホログラムビーストを作らせるために拉致したね
そのためにお店ぼろぼろ ファンも死んじゃたよ・・むぐ・・・」
レイノルドは黒服にラオの口を押さえさせた。
「ラオ大人にはお客様のために商品開発をしていただきます。無論ただではありません
当然の報酬はお支払いしますし、仕事が終わればお帰りいただきます。
こちらのペットの方は大変興味深いので我が社の研究材料として御提供いただきます。
そのためにはネイモア君にも御足労願う事になりますが・・・
こちらも代金をお支払いいたしますよ。
ここに100万ドルの小切手が有ります。これを持っておとなしくお引取願えますかな」
「いやだと言ったら?」
・・・ピシッ・・・・
背後で何かの音がした。
振り向くと壁に1ドル銀貨が付き刺さっている。
「この男、ドルフと言うのですが私のボディーガードで多少手品が得意でして・・・
物質を何処にでも好きなところに転送する事が出来てしまうのです。」
「ファンとエレナを殺したのはてめえだな!」
ドルフは無言でこちらを見据えている。
「そう言う事か・・・ではしかた有るまい。」
俺はレイノルドから小切手を受け取った。
「やはり貴方は聡明な御方のようですな。いかがですか?
その腕を我が社のために振るってはいただけませんか?
探偵家業では得られないほどの報酬を御用意いたしましょう」
「悪いが飼犬になるのは嫌いでね・・・
それに俺のプライドはこんな端金じゃあ買えねぇンだよ」
ビリビリビリ・・・・っ
俺はレイノルドの顔の前で小切手を破り捨てた。
「なっ・・・・! どうやら穏便には済まないようですな。 ドルフ!」
ドルフは懐から大型のボウイナイフを抜き刃先をこちらに向け睨みつけた。
その瞬間ドルフの手からナイフが消えていく。
「くっ・・・・」さすがにダメか・・・
ピンっ・・・
その時俺の目の前で一瞬音が響きドルフが前のめりに崩れ落ちた。
その背中には彼の持っていたナイフが深々と突き刺さっている。
もう駄目かと思った瞬間の出来事だ。
そして俺の真後ろで笑い声が響いている。
「おほほほほほほほほ・・・・っ
わたくしのサイコバリアを抜けられ物などございませんのよ・・・って
もう聞こえてはおりませんのね・・・・」
振り向くとそこにはエメラルドグリーンの光に包まれた小さな妖精が飛んでいた。
「危ういところでしたわねギルバート」
「おまえ・・・ファル・・シオン?」
「ああ そうだ おいらのアシストブレインだぜ・・・なんとか間に合ったな」
ネイがそう言いながらアルフの入っている籠を開放していた。
「つくづくおいしいとこを持っていく奴だな。」
「ファルの羽化にちょいと手間取っててね・・・ほらもう大丈夫だぜアルフ」
「きゃおっ! ありがとっネイっ もう 狭ッ苦しぃったりゃありゃしない
レディになんて扱いするのよっ セクハラよセクハラっ!」
しかしレイノルドは動じる様子も無く不敵な笑みを浮かべている。
「これはこれはネイモア君 ご招待の手間が省けましたな。
いかがですか?ヴァンダー重工で貴方の研究を進めてみませんか?
必要なだけの予算と施設を御用意いたしますよ。」
「残念だったな おいらの芸術品は持ち手を選ぶんだ。」
「あなた方が私の申し出を断れる立場ですかな?
私共の手品師もドルフだけではありませんよ」
いつのまにそこに現れたのか背後に数人の黒服が立っていた。
「ドルフ同様 皆ちょっとした芸を持っています。
それだけ離れていてはバリアを張る事もできないでしょう。」
「もぅっ! あったまにくるなぁ!!」
アルフは籠の上にとまりピンと羽を伸ばした。
その瞬間 アルフを中心に同心円状の光が波紋の様に広がった。
そして アルフの下に有る籠がスパークを起しブスブスと煙を上げている。
「何をした!」 レイノルドが後ずさりし机にもたれ掛かる。
バシッ・・・鋭い音が起こりその机が粉々にくだけ散りレイノルドはその残骸の上に
崩れ落ちるように倒れた。
「ようし よくやったアルフ!」
「うふっ・・・あなたの手品師達はあたしの精神コントロール下に有るわ
あたしの魅力に魅了されてもうメロメロよぉ〜っ」
うまいこと機転を利かした物だ、アルフは自分を閉じこめていた籠から大容量の
エネルギーを取り出したらしい。
アルフの精神波を封じ込むくらいのエネルギーがあれば十分って訳だ。
「・・なっ・・・馬鹿な・・・」
「それともあたくしとデートなさいます? 今すぐご一緒に窓の外まで・・・」
ファルシオンはレイノルドの耳元にテレポートしてささやいた。
レイノルドは驚愕の目つきでネイモアを見つめている。
「おいらの芸術品についての知識は無いようだね・・・
アルフレッドはテレパシー能力に特化して産み出された妖精さ。
10000km離れた人間だってコントロールできちまうぜ。
ファルシオンはサイコキネシス能力を最大限に引き出せる。
もっともテレポート能力は計算外の副産物だけどね・・・」
「ば・・化け物っ!」
「おぃおぃ 失礼な奴だな こんな可愛い子達を化け物扱いか?
お前の取り巻きの方がよほど化け物見てぇな面してやがるってのによ・・・
ま・・・取り敢えず俺達に手を出そうなんて考えん事だ・・・帰るぜハゲ」
「これで万事めでたしめでたし ありがとねギルバート。やぱり頼りになるよ。」
『・・・により事件C−1330一件落着。』・・・ピッ・・・
「記録終わり・・・と」
「しかし よく短期間でファルを羽化させたな ネイ」
「なぁに 2週間前から羽化の準備はしていたさ。」
「そ〜れで ここんとこ行方不明が多かったのねぇ」
「問題はメモリーチップだったけどエレナが命がけで運んでくれたしな・・・」
「・・て事は・・・あの」
「彼女の赤い靴はかかとの部分がコンテナになってるんだ。」
「ははっ てっきりお前はハイヒールフェチなのかと思ったよ。」
「おぃおぃ それに命を助けられたのは誰だ?」
「ありがとよ ファル」
「どういたしまして・・・うふふ」
「ネイに似合わずおしとやかになったもんだな」
「ぶぅぅぅぅっ それってどういう意味よっ! ガブッ・」
アルフが俺の耳に噛み付いた。
「いてててっ、 わりぃわりぃ」
「まぁ こうして無事に酒も飲めるしいいじゃないの?!
 派手な仕事をした割にはギャラも無いのが玉に傷だけどね。」
ネイがグラスを揺らしながら皮肉ッぽく笑った。
「そうそう その件だがな・・・」 ごそごそ・・・
俺はポケットの中から一枚の紙切れを取り出しテーブルにほうり投げた。
「・・・・ん・・・・んんんっっっ ひ・・100万ドルぅっ?!!」
それを見たネイが声を裏返らせて叫んだ。
「ギルッ・・・! それって破り捨てたんしゃなかったの?」
「ま・・・その・・・なんだ・・ファンやエレナの葬式代やハゲの店の再建費用とか・・
俺達がノーギャラってのもなんだしな・・・そう考えてると急〜に 破っちまうのが
惜しくなっちまってよ・・・ちょいと・・手品を・・・な」
「げぇぇっ さすがと言うか、せこいと言うか でも換金できちゃうのぉ?」
「御丁寧にサインが入れてあるから大丈夫なんじゃないの?」
「かしてみな おいらがやってみるよ」
ネイがセントラルバンクのオンラインフリーチェックにアクセスし
小切手のデータを送ってみた。
『チェック・・・完了いたしました。額面100万ドル 振り込み口座を御指定下さい。』
「OK 通ったぜ! 事務所の口座でいいよな・・・」・・・ピッ・・・っと
『取り扱い 振り込み口座確認 この小切手は贈与扱いとなっておりますので この場で
贈与税支払い手続きを行います。差し引き額 60万ドルを口座に御振り込みいたしました』
「40%も引かれちまうのかよ・・・ええっとハゲの店に・・と葬儀が・・・で残りは・・
ちぇっ たった35000ドルかぁ」
「ふつーに仕事したと思えばいいんじゃないの?ハゲの店をほっとく訳にもいかないからな」
「おいらの唯一の研究所だしね・・・」
「ま・・当分妖精は作らずに済みそうじゃねぇか」
「次は ラオに美少年でも作ってやるさ。」



s